第一回 糖尿病共学セミナーのご案内

共に学び多職種で新しい視野を構築する

この度、医療従事者の方々を対象にした糖尿病のセミナーを開催することになりましたので、ご案内します。

従来型のセミナーは、講師が一方的に話し、受講者は聴くのみという形式が多かったのですが、本セミナーは「共に学ぶ」ことをテーマに掲げています。

ひとつの風景を観ても、感じるところは人それぞれに異なります。10人の参加者がいれば、10人の物の見方があり、10人の糖尿病患者さんがおられれば、10人の感じ方があります。

それぞれの経験、考え方、価値観、情感に敬意を持って接すれば、そこには自然と”宝”が浮かび上がってきます。私は日々の外来を通して、お一人お一人に宝を見つける努力を重ねていますが、これらはいずれも教科書には記載されていないものばかりです。

もちろん、私もまだまだ修行中の身ですから「視れども見えず」の部分が多々あるはずです。けれど、多職種多分野のプロフェッショナルが集えば、私が見逃している宝を見出せる方もいらっしゃることでしょう。

人一人が持ち得る視点には限界がありますが、十人二十人が揃えば、私達はより広大な視野を共有することができます。

日々の外来で生まれる宝

先日、私が外来で出会った”宝”のひとつをご紹介しましょう。

症例は、高齢で1型糖尿病を発症され、1日4回インスリン注射を実施されている女性です。大変夫婦仲が良く、いつもご主人の運転で片道一時間半かけて遠方より来院されています。

診察前のカルテに、スタッフから「昨日は足がとても痛かったそうです」というメッセージが添えられていました。当院では、看護師はもちろん、臨床検査技師や事務員も、会話の中で気付いたことはすべて記録し、共有するシステムになっているのです。

診察室の中で足の痛みについて、もう少し深くお話を伺っていくと、どうやら足の痛みの原因は”こむら返り“であることが分かりました。しかも、「右足で起こったかと思うと、今度は左足に起こり、それはそれは大変でした」ということ。

こむら返りは、糖尿病が悪化した時によく出現する、重要な症状です。血糖値が異常に高いと、脱水などにより足の神経が悲鳴を上げて、痙攣が起こるのです。

インスリン注射をされていますので、毎日4回の血糖測定をされていますが、その日の手帳を見ると、丁度こむら返りが起こった時間に”HI (high)”と記載されていました。これは、血糖値が500mg/dL以上の時に表示されるメッセージ。「この機械では計れないほど血糖値が高いですよ!」という意味です。

さらにお話を伺っていくと、次のようなことが分かりました。”HI”という表示を見たご主人が、「これは大変だ!お母さん、歩けば血糖が下がるから、これから一緒に歩きに行こう!」と散歩に誘われたのだそうです。散歩が終わり、自宅に帰ったは良いものの、そこから度重なるこむら返りに襲われた・・というのが事の顛末でした。

ご本人にとっては、悪夢のような出来事であり、とても宝と呼べる経験ではないでしょう。しかし、この会話は私達医療従事者に多くのことを教えてくれる、宝の輝きを持っています。

高血糖下で無理に運動すれば、脱水や代謝不全を助長し、当然こむら返りも起きやすくなりますが、このことをお二人はご存じありませんでした。「運動すれば血糖は下がる」というよく知られた知識のもと取られた行動ですから、誰も責めることはできないでしょう。

私は高血糖時の対処について十分説明できていなかったことを深く反省し、今回起こったこむら返りの原因と、正しい対処方法について説明しました。

翌日のカンファレンスでは、このエピソードを取り上げ、皆で話合っています。”こむら返りと高血糖“が、まだ頭の中で結びついていないスタッフのために、再度基礎知識について解説しましたが、実際に通院されている方の経験談を通して、今回は頭の中に焼き付いたことと思います。

そして「今後の高血糖時の指導に際しては、こむら返りについても、きちんと説明するようにしよう。そのために、新しく分かりやすい資料も作ろう!」ということになりました。

知識は過去にあり智慧は未来を開く

書籍に羅列されたものは、冷たい知識に過ぎません。しかし、私達は現実世界での経験を通じて、冷たい知識を温かな智慧に昇華させることができます。

例えば「この人、糖尿病がひどくて毎年指導しているのだけれど、どうしても病院に行ってもらえない」という方がいらっしゃるとします。このような場合によく使われる手法が、いわゆる”脅し文句”です。「このままでは目が見えなくなりますよ」、「腎臓がダメになって人工透析を受けることになりますよ」、「足が腐ってしまいますよ」、「脳梗塞で寝たきりになりますよ」云々。

しかし、往々にしてこの手法はうまく行きません。むしろ反感を買ってしまうことも、しばしばです。

病院に行く気にならない理由のひとつとして「病院に行く必要性を感じない」という答えをよく聞きますが、ここで役立つのが先程の”こむら返りの知識”です。知識を役立つ智慧とするためには、若干の工夫が必要になります。相手の立場になり、どうすればその人の心が動くのかを考えるのです。

“自分には糖尿病の症状もないし、日頃の生活に何の支障もない”、そのように感じる方は少なくありません。しかし、ご本人が自覚していないだけで、人間の体は様々な形で高血糖という異常事態を訴えています。

「○○さん、血糖値が随分高いようですが、夜の間に足がしびれたり、こむら返りが起こることはありませんか?」

この問いを実際に行えば分かりますが、かなりの確率で「そうなんですよ、どうして分かったんですか?!」という答えが返ってきます。となれば、しめたもの。

「血糖値があまりに高いと、足の神経が悲鳴を上げるのです。こむら返りは○○さんの体からのメッセージなのですよ。」

多くの方は、このような問いかけを行えば、自然と治療に対して前向きに捉えてくださるようになります。知識が智慧になった瞬間です。

そして、智慧は普遍性を持ちます。”こむら返りの問いかけ”は、医師はもちろん、保健師、看護師、栄養士、歯科衛生士、誰にでも使うことができます。職種は問いません。

知識を書庫とすれば、智慧は書物を照らし出す明かりです。明かりがなければ、立派な書庫も役には立たないでしょう。別の言い方をすれば、知識は過去の遺産であり、智慧は未来を明るく照らす光。その智慧を引き出すのは私ではなく、糖尿病共学セミナーに参加される皆さんなのです。

言語化トレーニング

糖尿病共学セミナーは、参加者一人一人が持ち寄った生きた事例の中から、皆がそれぞれの視点で宝を探し、共に喜び、共に考える、学びの場であると共に、言語化の力を鍛えるトレーニング場でもあります。

私は職業を問わず、社会人にとって最も重要な資質は、国語力にあると考えています。しかし、残念なことに日本の学校教育は国語力を磨くことに、あまり重きを置いていないようです。医学部においても、カルテの書き方は授業で概論を教わりますが、実際に添削を受ける機会はありませんでした。

口頭発表や文書作成の力は、訓練を通じてのみ高めることができます。そして、この訓練は自分一人ではできません。文章作法の本を10冊読めば、文章力が格段に進化するようなことはないのです。

武道において、型は基本中の基本ですが、一人だけでトレーニングしていると、自分でも気がつかない癖が染みついてしまいます。優れた指導者につき、自分の癖を指摘してもらい、これを修正することが、上達の早道。

プレゼンや文章道も全く同じです。経験を積んだ編集者につき、誤字脱字に始まり全体構成に至るまで、こと細かな指摘と修正を受けて、初めて人は成長します。

私は、長い間にわたる大学での研究生活を通じて「学問の型」を徹底的に仕込まれてきました。若かりし頃は、添削されて真っ赤に染まったカルテや、論文原稿を見るにつけ、上司への反抗心が湧いた時期もありましたが、今はその意味が分かり、心の底から感謝しています。

けれど、誰もが職場でそのような機会を得ることができる訳ではないでしょう。真っ赤になった添削カルテから、はや26年。これからは、多くの恩師から学んできた「学問の型」を社会に還元していくことが、自分の務めであると考えています。

糖尿病共学セミナーでは、症例レポートをまとめるにあたり、ふつつか者ではありますが、私が編集者としてサポートさせて頂きます。

もちろん、既に十分な文章力をお持ちの方もいらっしゃるでしょうし、職業に応じた文書の型もまたあるでしょう。そうしたもの全てを皆で共有し、自分の文体をより豊に高める場と考えて頂ければ幸いです。

症例レポートをきちんとした形でまとめ上げ、人前で発表できるようになれば、学会発表も怖くはありません。全ての応用は基本の延長線上にあるのです。

開催日時と会場

  • 平成26年8月23日(土曜日)
  • 10:00~12:00および13:00~15:00
  • 松前町総合文化センター(エミフルMASAKI裏, 松前町役場隣)
  • 〒791-3120 愛媛県伊予郡松前町筒井633 TEL 089-985-1313

当初は、行政で保健指導に関わられている方々を想定していたのですが、歯科領域の方々からも参加希望を頂きましたので、職種や立場は問わない事としました。当セミナーに興味をお持ちの方は、どなたでもご参加頂けます。

詳細については、下記PDFをご覧ください。

第一回 糖尿病共学セミナー案内状 PDF