簡易自己血糖測定の規制緩和
5月27日付けの愛媛新聞に「指先自己採血検査を公認」と題する記事が掲載されました。
従来、採血は医師・看護師や臨床検査技師にしか、法的に認められていませんでした。しかし、簡易血糖測定の場合は小さなバネ式の針を使うことで、誰でも指先から簡単に採血し測定することができます。
そこで、採血に関する規制を緩和し、薬局などでお客さんが自分で測定を行う場合には、これを許可するというのです。なぜ、このような規制緩和が行われたのでしょうか?
この背景には、糖尿病患者の中でも、30〜50代の働き盛りの多くが治療を受けておらず、放置状態になっているという問題があります。最初は病院に行っても、途中で中断してしまうこともよく見受けられることです。
そのような方々を見つけ出し、治療をきちんと受けるよう社会全体でサポートしよう、というのが今回の規制緩和の骨子でしょう。
良い流れだとは思いますが、私はいくつか問題があるように思います。記事中にも書かれていますが「客に伝えるのは測定結果の数値と基準値のみ。結果をどう解釈すればよいかなど医師の判断を仰ぐべき事項については質問されても直接答えず、医師に助言を求めるよう勧める」のだとか。
問題は、この”基準値”という部分です。学会が定めている基準値から判断できることは「糖尿病か否か」のみです。西洋医学の悪いところですが、検査値のある値をもって病気か否かを判断するために、グレーゾーンにいる人、すなわち未病の人々は「病気ではない」と分類されてしまいます。
例えば、糖尿病は、空腹時採血では126mg/dL以上で診断されますので、110mg/dLの人は「糖尿病ではない」と判断されます。
普通の人は、”あなたは糖尿病ではありませんよ”と言われれば、「ああ、自分は糖尿病ではない。健康だったんだ、良かったぁ!」と安堵するに違いありません。しかし、ここに大きな落とし穴があるのです。糖尿病専門医の目から見れば、空腹時の血糖が110mg/dLはもちろん、100mg/dLでも人間本来の値からは程遠い値です。放置していれば、将来かなりの確率で糖尿病になってしまうでしょう。
簡易血糖測定を広めるからには、責任者となる薬剤師・看護師・臨床検査技師の方々にも、血糖値解釈の勘所をきちんと教育することが、まずは必要だと思います。
教育がなければ、この規制緩和は”高血糖の犯人捜し”に終わってしまうかもしれません。