冬天暖景

高野山真言宗の総本山である金剛峯寺(こんごうぶじ)は、毎月2回、高野山教報という新聞を発行されています。私は何を隠そう、この新聞の愛読者なのですが、新年号の表紙が素晴らしかったので、ご紹介します。

新年号の巻頭言は、総本山金剛峯寺座主(ざす)でいらっしゃる、松長有慶氏の手になるもので、テーマは「冬天暖景」。この言葉、私は不学にして知らなかったのですが、弘法大師が書かれた文の一節に登場するそうです。

早速調べてみると、出典は遍照発揮性霊集(へんじょうほっきしょうりょうしゅう)。この呪文のような名前の本は、弘法大師が著した膨大な詩文や手紙を編纂したもので、全十巻から構成されています。第四巻に納められている、”元興寺の僧中璟(ちゅうけい)が罪を赦されんことを請ふ表”という上表文を読むと、確かに”冬天暖景”が登場します。

この上表文は、弘法大師がある僧侶の罪の許しを朝廷に願い出るために、書き上げたものです。松長座主は本文中の一文

冬天に暖景なくば、梅麦なにをもってか花を生ぜん

を取り上げ、「冬の厳しい寒さの中でも、わずかに暖かい光が差し掛けるからこそ、春になれば美しい花も咲くのです」と訳した後、昨今の「他人を責めることだけに血道を挙げる現代社会」を憂い、冬天の暖景のごとく、冷え切った私達の心に、ゆとりと暖かさを取り戻すことが大切ではないかと結んでおられます。

巻頭言に添えられている写真は、逢坂三郎氏が撮影されたもので、霧氷を抱いた枝の向こうに、透き通るような冬の青空が広がっています。そして、冬天暖景の題字。

厳しい寒さの向こうには、暖かい日射しがあり、この恵みを受け、地中では春の草木が育ちつつあることに思いを馳せる。新しい年を迎えるにふさわしい、巻頭言でした。